第三章・新たなる敵



先日の旅で頼まれごとをこなす途中だった私。



再び青房を連れ、その続きをおこなうことにした。



頼まれていたことは、四種の生物の絵を描いてくることだ。
もっとも、魔法の道具によって絵心のない私にも簡単に絵が描ける物だ。


先日は三種類まで書き上げたので、今日は最後の一つであるジャイアントビートルを描きに行こうかと思う。





ジャイアントビートルと言えば蟻の巣。
ゲートから近く、また依頼主にも近いトリンシックの蟻の巣を目指すことにした。





依頼表を確認し、いざ蟻の巣へ。

途中群がってくる蟻を撃破しつつ、奥を目指す。
程なくして目標を発見した。





素早く道具をかざし、絵を描き上げる。





うむ、今回の絵はなかなか良く描けている。
もっとも、私が描いたわけではないが。



早速描き上がった絵をTomasの元へと持って行った。




どうやらフィギュアはElwoodの元へと直送されるようだ。
あの絵からどのような物ができあがるか、一目見たかった物であるが・・・


とりあえず事の次第をElwoodに伝えるべく、私はヘイブンの酒場へ戻った。






相も変わらず酒場にいるエルウッドにフィギュアのことを伝えると、さぞ嬉しそうにはしゃいでいた。
とりあえず依頼はこれで最後らしい。
これはこれで戦闘とはまた違う疲労感がたまる物だ。

いつものやつ・・・と、取り出したのは何かが入っている小袋だった。
いつものやつ・・・・もしや、この男は私を誰かと間違えてこの依頼をしたのだろうか。
それならばこの馴れ馴れしさも納得がいくが・・・



そう思いながら袋の中を確かめると、幾ばくかのgpと黒い宝石、そしてアクセサリーが入っていた。
アクセサリーは一級品ではないとはいえ、それなりに使える物であった。

gpのほうは戦って稼いだ方が多いような金額であったが、
苦労の末に手に入れたと思うとその価値は格段の物である。

Elwoodの依頼を終え、さてどうした物かと思う私に話しかけてくる声があった。

「こんばんは、セブンさん」

振り返るとそこには、ルゥ殿が立っていた。
晩、と言う時間でもないのだが・・・

「おや、ルゥ殿」

「いつも姉がお世話になっています」


ルゥ殿は私が所属するギルドの経営する店にて商品の補充を行っている者だ。
姉というのは私と同じギルドに所属している方のルゥ殿のことだな。
しかし、姉妹で同じ名前というのはどういう親だったのであろうか・・・


「こんなところで珍しい」

「えぇ、先ほどたまたま見かけて御挨拶でもと」

「まぁまぁお掛けなさい」

「立ち話も何ですしね」


先ほどのElwoodから受け取った報酬で多少懐が潤った私は、
ここでルゥ殿に会ったのも何かの縁と、いくつかの物をマスターに注文した。

「昼間からアルコールはなしかな?」

「問題ないのでは?」

そのルゥ殿の返答に、カウンターでエールをあおるElwoodを眺めながらふむと頷いた。
ルゥ殿にはなにか軽いワインでも、とおもったのだが「私は飲めませんから・・・」と先に言われてしまった。
しょうがないのでミルクを注文することにした。

注文した品を受け取り席に着く。



「今日はどちらへ」

「なぁにちょっと、蟻の巣までな・・・」

幸い今回の依頼で話の種があった私は、
最初からゆっくりといつもとは違う冒険譚を語ろうと思っていたのだが・・・


「こんばんは〜」


またもや時間違いな挨拶と共に、会話は遮られたのであった。

「おや、リオン殿」

振り返るとそこには、同じギルドの仲間であるリオン殿が・・・ラマにまたがっていた。
酒場の片隅にラマを留まらせると、こちらにやってきた。
建物内に動物はどうかと思うぞ、リオン殿。
しかしまぁ、ラマに対してはかなりの偏愛家だからなのだろうが・・・



とりあえずリオン殿にでも酒を付き合ってもらおうと思ったのだが、

「せっかくだからリオン殿にも一杯ごちそうさせていただくよ。 何がよいかね?」

「とりあえずミルクぅ」

そうか、彼は見た目とは裏腹にかなり子供っぽいことを忘れていたよ・・・
少しうなだれながらも私はバーテンに本日二杯目のミルクを注文した。


私は持ってきたミルクをリオン殿の前に置くと、
自らの杯を一気にあおった。


「ふぃ〜」


一杯目を軽く空けた時に、ふとルゥ殿が目の前にいないことに気が付いた。


見渡すと、酒場の奥の方でルゥ殿とその近くにもう一人、見知った顔を発見した。
あの出で立ちは・・・ファン殿だ。


「ファン殿もいらっしゃるのか」

「よろしければこちらへどうですか? せっかくですもの。 おごりですし♪」

「はっは、良いだろう」


ファン殿はどうやらワインを希望するらしい。
飲み仲間が増えて喜んだ私は、マスターに少し上質のワインを頼んだ。





「どうぞ。 1850年物だよ」


「うむ、良い物ですな〜」


軽く一杯目をあおったファン殿が感想を述べる。
かくいう私はワインは苦手だったりするのだが・・・


「アルコールかぁ・・・バイトがなければいただくのに」

少しくらいは大丈夫だろう、と言う者がいたが、

「物書きのバイトは一発でばれちゃいます」

とのこと。 バイト・・・まぁ略式に雇われて労働することなんだが・・・

「そんな仕事前にこのようなところにいて良いのか?」

「いいんですよぅ。 一仕事は終えましたから♪」

「私も長い仕事を終えたところだよ・・・」

と、ここで再び今回の旅の話に戻した。

「そなんだ?」

「どんな仕事だったんですか?」

「ほら、カウンターに男が座っているだろう?」


私はそう言うと、カウンターで飲んだくれているElwoodを指さした。


「そいつの頼み事をちょっと、ね・・・
その報酬が今、皆の腹の中というわけだ」


「それは大変でしたでしょう」


Elwoodの事は有名なのか、さぞ大変だったろうと言わんばかりにファン殿が頷いた。


「まぁ私からすれば戦った方が楽なのだがな・・・」


「戦いだけが全てじゃないお?」


「はっはっは、戦わない人生など考えられんよ」


などという会話をしていたときに、酒場に一人の男が入ってきた。
まるでその男の周りだけ温度が低いような、そんな感じのする男である。
そしてその男はカウンターの席に腰掛けた。
その顔には・・・見覚えがあった。


「おや、、テイカー殿。 なんだなんだ、今日は良く人に出会う。」


その男の名はアンダーテイカーという。
かつて、いくつかの大きな戦いの時に一緒に戦った戦友だ。




「蜘蛛城戦いらいですかな」

「ふむ・・・」


蜘蛛・・・ああそうか、フェルッカの蜘蛛砦を攻めに行った時以来か。


「千客万来ってこういうのを言うんですよね」


「テイカー殿も何か飲むかね? なぁに、おごりだよ」


「アルコールを適当に」


テイカー殿は期待を裏切らずアルコールを所望のようだ。
ここは一つ、アルコールの強めなリキュールを頼むことにしよう。


「さぁ、ぐいっと行ってくれ」


そう言うと、レノ殿は無言で一気に飲み干した。 うむ、いい飲みっぷりである。


後ろではなにやらミルク談義が行われているようだ。
とりあえず私は近場の席に座り直し、二杯目に手をかけた。






「しかし、しばらく見ない間に何か世界が活気づいたように見えるが・・・
何かあったのかね?」



「最近イルシェナーに出没してるって言う珍しいモンスターのせいかなぁ?」

「なんだか変わったものが出没するようになったのよね」


「ほほぅ・・・」


イルシェナーに珍しいモンスターか。
バロンや古代竜を討ち果たした今、敵はいないと思っていたのだが・・・


「姿形は普通のモンスターと同じなんだけど、同種のモンスターより数倍強いんだよね」

「噂に聞くパラゴンですね」


通常のモンスターの数倍の強さを持つ、パラゴンというモンスター。
なにやら血の騒ぐ話である。


「姉さんはハーピー相手に負けかけたって言ってたなぁ・・・」


あの古代竜や骨竜の数倍の強さ・・・
正直、2倍でもまともにやって勝てる気はしない。
それの数倍とは・・・想像もつかない話だった。
なにやらメイジであるリオン殿は1撃で倒れるほどの強さらしい。

無理もない、古代竜などは気を抜くと2発で死ぬクラスだ。
それの数倍というのだから、私でも1撃で倒されかねない。


「装備を新調しないと厳しいところだな・・・」


「テイカーさんは見たことありますか?」


「見たことはないが・・・それは所属の王と聞いたことがあるな」


なるほど、その種の模範【paragon】となる生物か。
戦うとなると、苦戦は間違いなさそうだ。


「そうそう、姿が黄金に輝いていると聞きましたな」


「ほう」


それならば間違って襲われることも無さそうだ。


「それは何か、どんな生物にも存在する物なのか?」


「同族ばかりを倒しているとその同族が怒って刺客を放つみたいな感じかなぁ?」


「ふむ・・・久々に血が騒ぐ。 ひとつ、見に行ってみるとするか」


「ナイトメアが苦戦するんだから、下調べと準備はしっかりしないとね」



下調べは実際に会ってみるのが一番なのだが、なるほどやはり装備は調えねばなるまい。
今の装備はどうにも、着ている気がしないくらい頼りがないのでな。



「さしずめモンバットなら、数倍になっても問題あるまい」


すっかりパラゴンとやらに興味を持った私は、すぐにでもイルシェナーに行こうと思った。
しかし、


「油断は禁物・・・・だ・・・」


と、テイカー殿より忠告が入る。 同じ戦場に立つ者の言葉として受け止めねばなるまい。
ざっと装備を見渡し、頼りない部分を補うことを考えた。
モンバット相手なら物理抵抗だけで何とかなるだろう。
そう思い、丁度持っていたモンスターの革をルゥ殿に手渡した。





この革をもって、グローブを作ってもらうように頼んだ。
同様に首も作ってもらった。
すると餞別だと言って、鎧と足も作ってくれたではないか。


しかし、頭だけはしっかりとしたカブトがよい。
そう思い、今の装備で余った防具を元に、ファン殿にクローズヘルムの制作を依頼した。


リオン殿がその辺の馬からでも革が取れるよ、と言うが聖騎士として馬を殺すのは忍びない。


「ラマはまぁ、やむを得ないこともあるが・・・」

「だな。 ラマは別・・・だ」


とっさにテイカー殿が同調してくれた。
そんな会話をしているうちに、ファン殿が戻ってきた。
裁縫と違い、鍛冶は炉や金床が必要だからな。


「遅れて申し訳ない」


そう言うファン殿から手渡されたクローズヘルムは、非常にバランスの良い品だった。
早速装着してみる。 うむ、悪くない。

「よし、ひとまずこれで行ってみよう。 皆、助かったよ
テイカー殿、一足先に行かせて頂くよ」


「魂だけで帰ってくるなよ?」

何とも、彼らしい言葉である。

「はっは、その時はお願いするよ。 では行って参る!」

私はそう言い残すと外につないであった青房にまたがり、イルシェナーの地へと向かったのであった。



イルシェナーの誠実の地を選んだ私は、早速モンバットを狩って回った。





10数匹を倒しても、その姿は見つからず。
次なる目標を探していた、その時だった。


なにやら高速でこちらに向かってくる生物の姿を目にした。
どうやら姿こそゲイザーリーブのようだが、その速度が尋常ではない。





「な・・・こいつは一体。 くっ・・・」


たかが、と思っていたのだがその攻撃はなかなかに痛い。
気を抜くと結構な痛手を喰らってします。


どうやらこれがパラゴンという者のようだ。
金色ではないようだが・・・この強さは間違いないであろう。


強いと言っても土エレ程度の強さだったので、落ち着いて戦えば楽勝だった。
戦利品を見ると通常のものよりも質のいい物を持っている気がする。


「なるほど・・・これ目当てに他の冒険者が頑張っているわけか。 よし!」


パラゴンの手応えに高揚した私は、次なる獲物に向けて走り出す。
先ほどのアルコールなど、一気に抜けてしまったようだ。

モンバットだけとは言わず、その辺のモンスターを手当たり次第に倒す。
そのうちに、インプのパラゴンに出会った。





これがまた、油断は出来ない強さだった。
どうやらパラゴンというのは、どれも恐るべき速度で移動するようだ。
危なくなったら離脱、と言うのもなかなかうまくいかない。
それでも、撃破することに成功した。


「インプでこれか・・・ふふ、面白い!」


更に戦いを続けた私は、ようやくモンバットのパラゴンに遭遇した。





モンバットでさえ、その強さはなかなかのものだった。
しかし、やはり所詮はモンバット。 難なく撃破した。


他の生物のパラゴンは一体どういった強さなのか。
イルシェナーに敵なし、と思っていた私に再び目標が出来た瞬間だった。


今日の所は一度宿に戻ろう、とムーングロウを目指す。



厩舎に青房を預け、その日は眠りについたのであった・・・





新たに始まる戦いの日々に心躍らせながら。